2006年12月06日

ものがたり#8 くも膜下出血

 今回はPTになって最初の年、某大学病院に週一回研修に行っていた。そこで自分が担当させていただいたくも膜下出血の患者さんの思い出である。
 高次脳機能障害の重度なかたであった。左側の半側空間無視や構成失行もみられたが、それよりも知的低下、具体的には感情の起伏が激しく子供っぽくなってしまっているというほうがわかりやすいだろうか。感情失禁もあり、多弁であるが、どこか憎めない、可愛らしい感じのおばさんといった風情であった。
 下肢の痙性が強く、膝継手をターンバックル式に改造した長下肢装具を使用し歩行練習を行った。その日の体調(というより感情の起伏?)によって筋緊張が高い時は装具の装着に困難を極め、歩く準備に訓練時間の大半を費やすことも多かった。
 そもそも、脳血管障害の場合、どこからが拘縮でどこまでが痙性なのかはっきりしないほど緊張が強いかたもまれではない。可動域制限をできるだけ改善する目的でROM訓練を行うのだが、このかたの場合いかんせん、子供っぽくなっており我慢しようという気持ちが少ないのが災いして、なかなかROM訓練の効果が出てこないという悪循環で膝の可動域が低下し、屈曲拘縮になってしまっていた。
 しかし、母は強し、というか何というかである。このかたには娘さんがふたりいたのだが、その長女のかたが結婚することになり、ご自身のセルフケアが見違えるほどに改善したのである。やはりいつまでも子供に頼れない、という気持ちからか、はたまた新郎やその新郎家に対する気遣いなのかわからないが、いずれにしてもこういう環境変化がよい方向に向いたひとつの例として強く印象に残っている。脳血管障害であるからまだら様の知的障害になることはわかっているが、それにしても改めて人間の脳の不思議さ・複雑さを思い知らされた。
 クリスマスの日に、この娘さんが勤めるケーキ屋にケーキを買いに行ったことが懐かしい(もちろん独身時代の出来事です)。大学病院でお世話になった先生からは、彼女を相手としてお見合いを持ちかけられたこともあった。その後再発して亡くなられたとも聞いたが、あのにっこりした笑顔が忘れられない・・・。
posted by pt_onuki at 00:12| 千葉 ☁| Comment(7) | TrackBack(1) | ものがたり | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
きっとこの方は、母として一生を終えたので
幸せだったんだと思います。
その人らしく生きれる援助が行えればと思います。
Posted by くろ at 2006年12月06日 22:34
母は本当に強いですよね。
守る人・大切な人がいると人って強くなれるものなんですね。
その想いを見過ごすことなく汲み取っていくことが難しいところだと日々感じます。
Posted by 気まぐれ at 2006年12月06日 23:16
くろさん、気まぐれさん、まさにそうですね。

非常に子供っぽく、知能低下が見られても、
娘さんを見るまなざしが母親のものでしたね。
「うちの娘の婿に、先生どうかしら」
このひとことが言えずに、自分の指導者の先生を介して聞いてきたり、なかなか策士・・・。(^^;)

痛みに耐える我慢強さが低くなっていましたが、
娘さんのことを持ち出してうまく我慢させたりとこちらもずるく活用させて貰いましたが。
Posted by おぬき at 2006年12月07日 05:40
私はどんな状態になっても、
自分の子の親でありたいと思う。
Posted by life-reha-care at 2006年12月07日 07:46
いやーさすがlifeさん、いい言葉だなあ…。
Posted by おぬき at 2006年12月07日 07:55
 やはりその場の雰囲気というか、感じたものがその人のモチベーションになるんですね。最近、意識は身体の外にあるというようなことが言われていますが、この例もそのように捉えられるかもしれませんね。外的なものが意識形成を促す。そんなことをもっと意識してセラピーしたいものです。
Posted by ぷろPT at 2006年12月14日 23:14
ぷろPTさん、なかなかいい指摘ですね。
「意識は身体の外にある」ですか。
まさにそんな感じですが、いかに環境が行動を規定しているかの見本みたいなものですね。
そう考えると、患者さんを取り巻く環境や外的世界(本来は内的世界も含め)をしっかりこちらが認識しないといけませんね。
また新しい気づきをありがとうございます。
Posted by おぬき at 2006年12月15日 05:22
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